アパートを相続する前に兄弟で話しておきたいこと
親が所有している土地やアパートを兄弟間で相続することになった場合、相続する方法や持分などを事前に取り決めていないと、兄弟間のトラブルに発展してしまうこともあります。トラブルなく財産を分割できるように、財産分割の方法などを知っておくことが大切です。その他、相続の際のリスクなども検討し、兄弟姉妹などの相続人が納得して相続手続きを行えるようにしましょう。
この記事では、アパートにフォーカスして、相続する場合に発生しやすいトラブルや、一般的な対策、兄弟間分割相続を行う場合の手続きについてご紹介します。
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親が所有していたアパートを兄弟間で相続する場合、不動産の分割方法や持分、賃貸経営による家賃収入の扱いなどでトラブルになるケースも少なくありません。一般的な家庭では、相続財産を占めるアパートの価値が高い傾向にあるにもかかわらず、現金などで均等に分けにくいことが主な理由でしょう。
まずは、アパート相続で起こりやすいトラブルの例を見ていきましょう。評価額のトラブル
親が所有しているアパートを兄弟で相続する際に、アパートの評価額をいくらとして扱うかでトラブルになることがあります。アパートを相続する場合の評価額は、基本的に、時価もしくは相続税評価額を用いられ、相続人同士で選択することが可能です。どの程度差額が付くかは物件によりますが、時価で計算した方が評価額は高くなる傾向にあります。
例えば、現金1,000万円とアパートを兄弟2人で相続する際に、アパートの時価が1,000万円、相続税評価額が500万円である場合、相続税評価額を基準にすると相続額に偏りが生じます。
アパートの評価額が低ければ、そのほかの遺産を多くもらえたり、代償金の支払いが少なく済んだりするため、アパートを相続する人は「できるだけ評価額を抑えたい」と思い、その他の兄弟は「評価額を上げたい」と考えるでしょう。
このように、評価額の決め方によって実質的な財産が異なってくることから、トラブルに発展しやすくなります。共有名義のトラブル
アパートを共有名義にすると、扱いが難しくなるため、兄弟間でトラブルに発展しやすくなります。
共有名義にした不動産を売却・処分する際は、名義人全員の同意が必要です。加えて、名義人の一人が亡くなれば、親戚が相続して名義を共有しなければならない可能性もあります。
また、共有名義で相続するアパートが、賃貸住宅として運用されていた場合、「相続後にアパート経営を続けるか」ということも争いの元になりやすいポイントです。アパート経営は時間と労力を要する事業であり、利益を上げるには専門的な知識も必要になるため、利益を重視する人とリスクを重視する人で意見が分かれることがあるでしょう。
共有名義を部分的に解消するには、「持分放棄」や「持分移転」などの手続きが必要ですが、一般的にこれらには多くのコストがかかります。加えて、「アパートの維持管理業務を誰が行うのか」という点も話し合う必要があるため、共有名義にする場合はアパートを相続するメリット、デメリットを名義人全員があらかじめ理解しておくことが必要です。債務相続のトラブル
遺産相続を行う際は、被相続人が残した借金やローンなどの債務も相続財産として扱われます。そのため、被相続人に、アパートに関わる借金やローンがある場合は、「相続する必要があるのか」「誰が相続するか」といったことに関して意見がまとまらず、トラブルに発展する恐れがあります。
債務のなかには、銀行や信用金庫などで組んだローンや、友人、知人からの借金も含まれます。その他、被相続人が借金の保証人になっている場合、保証人としての名義も遺産相続の対象です。
このような債務の相続を回避するには、相続手続きを行う時点で、「相続順位や相続割合のシステムに沿って債務の一部もしくは全部を相続する」もしくは「相続放棄を行う」などの対処が必要です。被相続人に債務があることを把握しておらず、相続に関する手続きを行わなかった場合、基本的には債務も含めた遺産が相続されるため注意しましょう。-
前述したように、兄弟間でアパートを相続する際は、トラブルが起こらないように注意しなければなりません。
アパートやマンションを分割相続する場合は、現物分割・代償分割・換価分割・共有分割のいずれかの方法で相続の手続きを行うのが一般的です。相続トラブルのリスクを回避するには、相続する資産の種類や金額などに適した方法で相続手続きを行うことが重要になります。 ここでは、分割相続で多く用いられる4種類の方法について、概要やメリット、デメリットを紹介します。現物分割
現物分割は、相続人の1人が不動産の現物を相続する方法です。兄弟間でアパートを含む現物分割を行う場合、1人がアパートを相続し、他の人が現金や株券、アパート以外の不動産など他の財産を相続する形をとります。相続人が現物をそのまま相続するため手続きが簡単なことや、アパートの価額評価や共有名義などによるトラブルを回避しやすいことが特徴です。
また、現物分割では、所得税や相続税の控除が期待できるというメリットもあります。後述する換価分割などでは、不動産を現金に換えるため、売却益が生じると譲渡所得税が課されるうえ、相続税の特例が利用できません。
しかし、現物分割では、不動産をそのまま相続するため所得税と相続税が抑えられます。
現物分割は、自宅やアパート、預金、株式など、財産ごとに相続人を決めるため、例えば長男がアパートを相続し、預貯金と株券を次男が相続するという方法も可能です。しかし、財産の内容によっては、金額のバランスが一方に偏ってしまうことがあります。この場合は、代償金を支払うなどして公平性を保つことが大切です。
特に、不動産は現金と評価価値が異なるため、公平な分割を行うことが難しい傾向にあります。そのため、この分割方法を利用する際は、相続人全員からの了承を得ることが必要でしょう。代償分割
代償分割は、不動産や車などの現物を相続した人が、他の相続人に対して代償金を支払う方法です。相続される遺産の数が少なかったり、兄弟間で相続した金額に差が付いたりする場合に適しています。
代償分割の主なメリットは、相続人同士で平等に財産を分割しやすいという点です。例えば、長男が4,000万円のアパートを相続し、次男と三男が1,000万円ずつ現金を相続した場合、長男は次男と三男に各1,000万円の代償金を支払うことで相続額を均等にできます。このような相続額に差が付くケースは、代償分割を行うことで相続トラブルを回避しやすくなるのです。
一方、デメリットとして、現物を引き継ぐ相続人は、代償金を用意しなければならないことが挙げられます。相続人が代償金を一括で支払うことが困難である場合、現金による分割払い、もしくは不動産や非上場株式などの現物で代償金を支払う方法もあります。しかし、代償金の支払いが滞ると相続トラブルになる恐れもあるため、代償分割を選択する場合は相続人の資産状況を考慮することが重要です。
なお、代償金の金額や支払い方、相続手続きの進め方によっては、代償金に対して贈与税や所得税が課されるケースもあります。代償分割によって代償金を支払うことを遺産分割協議書へ記載していれば、基本的に贈与税は課されません。換価分割
換価分割は、相続される資産を現金化した後に、相続人の間で分割する方法です。相続人全員がアパートを必要ないと考えたり、遺産分割の取り分を決めかねたりする場合に選ばれることが多くあります。
特徴として、他の方法と比較して財産を均等に分割しやすく、相続トラブルを防ぎやすいことが挙げられます。また、遺産相続によって相続税が発生する場合、換価分割を選択すれば相続した現金を納税に充てることも可能です。
ただし、相続対象となる不動産に居住したり、賃貸物件にしたりする場合には、換価分割は適していません。また、さまざまな理由で財産の現物を残しておきたい方にも、あまりおすすめできない方法と言えます。
実際にアパートを換価分割するには、アパートを売却しなければなりません。相続した不動産を売却する際は、アパートの相続人の名義変更が必要です。特にアパートの場合、アパートの名義人を相続人全員による共有名義、もしくは代表者1人の名義に変更します。アパートの名義人については、遺産分割協議書への記載が必要です。
アパートの買い手が決まり、契約を行ったら、相続人から買主へ登記を移転することで換価分割ができます。
なお、換価分割ではアパートを相続した後に売却するため、相続税や固定資産税、登記費用などの各種税金、経費がかかります。また、遺産分割協議書への記載内容は、名義人の決め方によって異なります。したがって、換価分割を行う際には弁護士や司法書士などの専門家に相談することがおすすめです。共有分割
共有分割は、複数の相続人が共有管理者になって1つの不動産を共有する方法です。相続人ごとの持分を決めて分割することで、不動産を公平な形で相続できます。また、アパートの家賃収入を分割することで兄弟間の年収を平均化し、所得税を節税できるケースもあります。
ただし、共有分割では、アパートの利用や補修は、相続人は誰でも行えますが、リフォームやリノベーションは持分割合の過半数の同意が必要です。さらに、アパートを売却する際には、全員の同意が必要となります。
また、固定資産税の納付書は、代表者一人に送られてきます。代表者が相続人それぞれから費用を回収する必要があることから、トラブルが起こりやすくなると考えられるでしょう。
また共有分割で相続した後、解消したい場合には、持分の売却や放棄、共有物分割請求訴訟といった手続きが必要です。それぞれの方法を簡単に説明しましょう。
持分売却では、他の共有管理者もしくは第三者との間で持分を売買します。持分は共有管理者が個別に売買できる権利を持っているため、他の共有管理者から同意を得なくても実施可能です。相続した持分を売却することで、共有名義を解消できます。
一方、所有していた持分を他の共有管理者へ移転、帰属させる「持分放棄」という方法もあります。実際に持分を移転させるには、法務局で持分移転登記の手続きを行わなければなりません。持分放棄では、金銭の授受を行わずに持分を移転させられますが、持分が帰属される人に対して贈与税が課されるため注意が必要です。
また、共有物分割請求は、共有管理者の間で話がまとまらない場合に検討されることが多い方法です。共有管理者の1人が裁判所へ請求手続きを行うことで、共有状態を解消する方法が決定されます。なお、民法256条では、共有管理者が共有物分割請求を行うことが認められています。
このように、共有分割はメリットやデメリットがあるうえに、相続後の解消に手間がかかります。そのため、兄弟間で現状をきちんと共有した上で検討することをおすすめします。-
- 遺産相続を行うには、対象となる相続人の確定や相続財産の把握、確定などの手続きが必要です。手続きの進め方や必要な書類は、遺言書の有無などによって異なります。まずは、分割相続の手続きについて、順を追って見ていきましょう。
相続人の確定
まず、被相続人による遺書の有無を確認し、遺産分割の対象となる相続人を確定します。法的に有効な遺言書がある場合、遺産分割協議書の代わりに遺言書を法務局へ提出することで遺産相続手続きを完了できます。
ただし、法的に有効な遺言書がない場合は、相続人の確定手続きを進めなければなりません。相続人の範囲は民法で定められており、手続きを行う際は、基本的に法定相続人による遺産分割協議が必要になります。
では、法定相続人はどのように定められているのでしょうか。
被相続人に配偶者がいる場合、配偶者は法定相続人に含まれます。配偶者以外の人は、被相続人の子供・孫など(直系卑属)を第1順位、被相続人の父母・祖父母など(直系尊属)を第2順位、被相続人の兄弟姉妹を第3順位として、順位が高い方から優先的に法定相続人になる仕組みです。なお、被相続人が生前の手続き、もしくは遺言書への記載によって認知している婚外子がいる場合は、第1順位の相続人として扱われます。ただし、相続放棄の手続きを取った人は、順位にかかわらず相続権を持たないものとして扱われるため注意しましょう。相続財産の確定
次に、被相続人が所有していた資産、およびローンや借金などの債務を合わせた相続財産がどのくらいあるかを調査します。
資産に含まれるものには、現金、有価証券、不動産、動産(貴金属や骨董品など)、生命保険金などがあります。資産のうち、礼拝に用いる墓地や墓石、仏具などや、法定相続人の数×500万円までの生命保険金などには相続税がかかりません。
財産の相続手続きでは、「単純承認」もしくは「限定承認」で相続を行うか、「相続放棄」を選択するかを決定します。
単純承認とは、ローンや借金などを含めた相続財産をすべて引き継ぐ方法です。債務より資産の方が多い場合や、債務が後から見つかるリスクが低いと考えられる場合に適しています。一方、限定承認は、相続される資産の範囲内で相続財産を引き継ぐ方法を指します。プラスの財産の範囲内でマイナス財産を相続するため、借金の相続を避けられます。しかし、限定承認を実施するには相続人全員による同意が必要な上、手続きに時間がかかりやすい方法です。そのため、限定承認による相続を検討する際には、遺産相続に特化した税理士に相談することをおすすめします。
また、相続を拒否したい場合は、「相続放棄」を行いましょう。相続放棄は、相続人としての立場から外れ、債務を含む財産すべてを放棄する方法です。相続人が相続放棄を行うと、相続順位が同じもしくは低い相続人に権利が移ります。一般的に、相続放棄は、債務が資産を上回る場合に選択されます。ただし、一度相続を放棄すると、後から財産が見つかったとしても撤回できないため、注意が必要です。
なお、相続財産は、原則として相続開始から3ヶ月が経過するまでに手続きをしなければなりません。3ヶ月以内に相続手続きを完了させることが難しい場合は、家庭裁判所に申立を行い、手続き期限の延長を行いましょう。
相続開始から3ヶ月以内に手続きを行わないでいると、相続法に沿って単純承認を選択したと見なされます。限定承認もしくは相続放棄を選択するには、家庭裁判所に申述書を提出して別途手続きを行わなければなりません。
また、相続手続きにおける3ヶ月の熟慮期間が開始されるのは、自分が相続人になったという事実を知った時からです。最初に相続人になった人は、被相続人が亡くなったことを知った時点を指します。一方、他の人が相続放棄をして相続人の権利が移った人は、自身が相続人の権利を得たと知った時点から熟慮期間が開始されると考えます。遺産分割協議書の作成
相続財産が決定したら、遺産分割協議を行い、相続財産をどのように配分するかを決定します。協議で決定した内容を遺産分割協議書として作成することが必要です。
遺産分割協議書に決まった書式はありませんが、以下の情報は記載しておく必要があります。
・被相続人の住所と氏名
・相続財産の内訳と相続人の氏名
・相続人全員分の住所と氏名
・相続人全員分の実印と印鑑証明書
なお、作成した分割協議書は、関係機関へ提出し、同内容の書類を相続人全員が1人1通ずつ所持しておきます。さらに、各相続人が所持する遺産分割協議書に相違がないことを証明しておきましょう。証明するためには、一人ひとりが所持している分割協議書にまたがる形で割印を押します。
相続財産の量や相続人の人数によっては、遺産分割協議書のページ数が増加することがありますが、ページをつないで製本してから契印を押すことで、1つの書類であることを証明できます。
このような証明によって、遺産分割協議書の内容を記録に残し、トラブルの発生を回避できるでしょう。法務局へ提出
相続する不動産の所有権移転登記を行うには、遺産分割協議書を含む必要書類を法務局へ提出する必要があります。遺産分割協議書以外の必要書類は以下のとおりです。
・所有権移転登記申請書
・被相続人の戸籍謄本、除籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本(被相続人が死亡した日以後の証明日のものが必要)
・相続人全員の住民票の写し(マイナンバーが記載されていないもの)
・相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に添付)
・財産目録
所有権移転登記申請書については法務局ホームページで書類の様式、記載例が掲示されています。遺言書の種類や有無などによって書類様式が異なっており、状況に応じて必要な申請書の確認、ダウンロードを行いましょう。
なお、相続資産の所有権移転登記には、決まった期限は設けられていません。しかし、アパートの所有権移転登記を行わないと、物件を売却できなかったり、相続手続きが複雑になったりする恐れがあります。遺産相続手続きを円滑に進めたい場合は、アパートの所有権移転登記をなるべく早い時期に実施しましょう。-
- 相続の手続きを行おうとしても、連絡先や所在が分からずに連絡がとれない相続人がいる場合もあるでしょう。その際、戸籍上の住所を訪れる、連絡先を把握している人を探すなどの方法で連絡を取らなければなりません。遺産分割協議に参加する相続人が1人でも不足している場合、遺産分割協議が無効になるためです。
戸籍上の住所にいない、行方が分からない相続人がいる場合、法律上は行方不明者として扱われます。行方不明であり、遺産分割協議への参加が困難だと考えられるならば、不在者財産管理人の選任手続きを行いましょう。不在者財産管理人は、行方が分からない相続人の財産を、当人に代わって管理・保存する役割のことです。対象となる相続人の従来の住所地、もしくは居所地の家庭裁判所に申立を行うことで選任されます。一般的に、弁護士や司法書士などが不在者財産管理人になるケースが多いでしょう。
不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を取得することで遺産分割協議に参加可能です。なお、不在者財産管理人による請求があった場合には、家庭裁判所の判断によって報酬が支払われます。基本的には不在者の財産から支払われますが、費用が不足することが考えられる場合、申立人に対して予納金が請求されることがあります。予納金の額は家庭裁判所によって判断されるようになっており、一般的には数十万円ほどとされています。最終的に予納金が余った場合は、申立人に返還される仕組みです。-
アパートを兄弟間で相続する際には、価額の決め方や名義人の決め方などでトラブルになることもあるでしょう。相続手続きでのトラブルを防ぐには、様々な手段があることを把握し、適切な形で相続手続きを進めることが重要です。
またアパートを相続する際にトラブルになった場合は、すみやかに専門家へ相談しましょう。 前述した換価分割によって、アパートを売却する方法も一つの手ですが、アパートの査定額などを調査する場合は、不動産に相談すると良いでしょう。
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